Nice to meet you!




 久しぶりの本庁で、見かけた一倉は楽しそうにテレビを見ている。珍しくも時折歓声まであげている所を見ると野球中継でも見ているのか。不良め。
 しかし課長の不在が逆に捜査一課の猛者どもを「自分の仕事」に専念させると同時に息抜きを兼ねるというパラドックスゆえに、彼の不在(いつでも捕まえられることが大前提だが)は歓迎され黙認されている。本人はウチの捜査員は優秀だからと言い、仕事はしてるさ俺の仕事は責任を取ることだと嘯く。肝が太いのはとにかく間違いない。
「おう室井!」
 気付かれ、来い来いと手招きをされる。室井は眉間に皺を寄せた。しかし、確かに別段急いではいない。
 並んでテレビ画面を見る。野球ではない――これは。
「ラグビーじゃないぞ、高校アメフト。こいつ、良いと思わないか」
「……2番か」
「“金剛阿含”。100年に一人の天才だとさ」
 関連雑誌を片手に一倉は嬉しそうだ。声音にも、珍しく素直な賛辞が籠もっている。
「確かに良い動きだな。ずば抜けた身体能力をしてるのがわかる」
「まだ16か17だぞ?見事なもんだ」
「こっちの……12番はどうなんだ」
「12番か。彼もいい選手だ、お前なかなか見る目あるな。“金剛雲水”、2番の兄貴だと」
「攻撃の起点は彼だろう。司令塔は彼なんじゃないのか」
「広い視野を持ってることが求められるポジションだからな」
 室井の観察眼はさすがだ。これっぽっちの情報で、12番の役割を見抜いた。
「突っ走ることなら誰でも出来るだろう。司令官となるとそうはいかん、お前のようなのは例外だ。むしろ司令官が先陣切って突っ走るな」
「うん、その台詞はそのまま返品したいところだな。……金剛弟の身体能力と反応の早さ、金剛兄の状況判断、33番……“細川一休”のスピードとクイックネス、ジャンプ力。59番、“山伏権太夫”の攻撃的な壁。他にも穴らしい穴がない。さすが神奈川最強チームだけはある」
 地元のチームなのか。ならば一倉が肩入れするのもわかる。
「特にほら、来るぞ――金剛兄弟のコンビプレイだ。“ドラゴンフライ”だ、ほれぼれする。圧倒的だ」
「……凄いな。どうやったらあんな場所にパスの受け手がいるとわかる?自分の体が二つあるような同調の仕方だ」
「遊ばず死ぬほど練習したんだろうさ。いいねェ、美しいねえ。青春だねえ」
 嬉しそうだ。
 一倉の背広の胸ポケットから、たらこパスタソースのCMソングが流れてくる。室井は異変を悟り、ふっと腰を浮かせた。
「――あのCM、娘が気に入ってなあ……」
 おそろしくしみじみと、気味悪いほど優しい笑顔になって馬鹿親がうっとり呟く。
「だろうな。それ以上言うな皆まで言うな。仕事に戻れ」
「へいへい――はい一倉。待ったぞ、お陰ですっかりアメフトファンだ。すぐ戻る」



 翌日、警視庁捜査一課前。
「よォ室井。よく会うな」
 上着に鞄。外回りスタイルで、妙に一倉は機嫌がいい。
「……出張か」
「ああ、ちょっと地元へ」
「地元?――お前まさか」
「ちょっと就職活動支援をな」
 ふふん、と嬉しそうな笑みを見せて、一倉はさっさと廊下を歩いていく。一人とは珍しい。室井が覗き込むと、がらんとした一課に残ったちっちゃな警部が会釈をよこした。
「……佐伯警部。止めないのか」
「止まってくれる人ですか?」
 一応訊いてみると、ちっちゃい警部はさらりと応じた。達観を感じる。室井は軽く眉を上げ、納得した様子で頷いた。
「ツバつけときたいんだそうです。プロになるのかもしれんが、ならんのならおまわりさんはどうだ、と」
 悪いやつ合法的にボコれて楽しいぞお、と言って口説くんだそうですよ――。
 しばらく見ぬ間に上司の口調を見事に模倣できるようになっている彼に、男は眉間に皺を寄せる。
「その彼が自分と同じ考え方をすると思ってないか」
「言い切りました。“同類だ”と――それはもう嬉しそうに、にいィっと笑って。お陰で新入りが二人ほど腰を抜かしまして」
「――」
 一倉の直感があの少年は自分と同類だと、そう告げたのか。
 ならば、そうは外れない。
 100年に一人の天才と呼ばれる少年。全国に30万近い人員を抱える警察機構で徹底的に選抜され、警視庁創立以来五本の指には確実に入るであろう化け物捜査一課長なら確かに同類項なのだろう。
 佐伯は肩をすくめる。
「指示を受けまして、少し調べたんですが――ちょっと探っただけでも地元じゃ相当のカオですね。しかも証拠が残るような真似は何一つしていません。頭も切れるんだろうが、彼の悪行については誰もが口をつぐむ。カリスマ性なのか、報復を畏れるのか、あるいは両方か。齢17にして実に見事だ」
「……末恐ろしいな」
「随分とお気に召してしまったようですよ。自分の目で直接見てくるってんですから、あの惚れっぷりときたら――」
 二人は揃って黙り込んだ。
 何だ、今の既視感は。
 この行動パターンを自分は知っている。忘れようにも忘れられない、そうだ。
 室井にとっては最初の上司。佐伯にとっては、いろいろ妙な方に人生をひん曲げてくれた存在。
 自分が知るより前から自分のことを知っていた、華やかで艶やかな女。奔放で、何とも言えず魅力的だった。
 似たような表情になり、二人は揃って溜息をついた。



「いるんだよ、ああいう奴ってのは」
 新城を前にし、一倉は言う。
 溢れんばかりの才を与えられ、賞賛に囲まれて、何一つ不自由など無いように見えながらどうしようもない乾きを覚えている青少年というものが。
 その才を乗りこなせても乗りこなせなくても、負担に思っても思わなくても。
 所詮、17才の未成年だ。守られる側の生き物に過ぎない。どれだけ粋がろうとも、様々なものが彼らを守る。そして守られ拘束される。鬱陶しくても、邪魔であっても。
「どうせならこっち側にいてもらいたいもんさ。あっち側に取られると困る――ああいう坊やはな」
「手元に置いておこうという腹ですか」
「とんでもない。若者の進路を他人の俺がとやかく言う資格なんてない」
「……嬉しそうですねえ」
 一倉は涼しげに笑う。
 そうだ、ワクワクする。
 100年に一人と言われ、有り余る程の才を周囲に見せつけ、明晰な頭脳を真っ当な方向に用いるだけでは飽きたらぬ子供。
 そうだ、ワクワクする。
 その己の、他との差異を悩み苦しみ周囲と折り合おうというタマにはとうてい見えない。その剥き出した牙でどれだけ周囲を脅かしているか、気付いているのかいないのか。
 穏やかで温和しくて凶暴な、愛しくも憎たらしい愛すべき大多数の凡人なる周囲。狭い狭い世界で祭り上げられ、担ぎ上げられてしまった砂上の少年王。
 わかる、わかる。何もかもぶっ壊してやりたいんだよな。全てが気にくわないんだよな。誰もわかってなんてくれない――いいねえ青春!
 そうだ、誰もわかってなんてくれない。甘ったれた僕ちゃんだ。世界が自分の意のままだなんて本気で思ってるのは、生まれたばかりの赤ん坊でなきゃ逃げ出してきたどっかの患者だ。
「世界は愛だよ、お前。愛がなきゃ生きていけんよ、人間は一人じゃ生きられない不完全で寂しい生き物だ」
 完膚無きまでに叩きのめされるがいい。力一杯スッ転んで、自分一人では何も出来ぬと思い知って、悔しくて恥ずかしくて大泣きに泣くがいい。
 それでこそ人間。それこそが生の醍醐味。未だ知らぬと言うなら、手取り足取り懇切丁寧に教えてやりたいくらいだ。むしろこの手でこの足で、転ばせた挙げ句に泣かせてやりたい。
「たまらんねえ。いいねえ、高校生!」
「一倉さん。いろんな意味で不気味ですよその台詞」
「女子高生ともセーラー服ともブレザーともスクール水着とも体操服とも学ランとも言ってないだろうが大目に見ろよ」
「……なんか納得いかない単語混ざりましたよ……?」
「冗談に決まってるだろうが。相変わらず頭が固い」
「そんなハイレベルな冗談に適応する分野は僕の脳には不要ですので。念のため聞いておきますが先方は未成年なんですよね?あなたが本気で喧嘩するような相手なんですか?」
 やんわりとたしなめるつもりで口にして、ぎくりとする。
 一倉がにこりと笑む。
 一倉が本気で喧嘩をしたいと望む相手なのか。齢17の未成年、現役高校生にして、この男に挑戦相手として認定されてしまったのか。それもおそらくは一方的に、“叩きのめしてやりたい”と。
 新城賢太郎は額に手をやり、溜息をついた。
「……大人げない……」
「若い日の蹉跌は買ってでもしておくべきだと思うがね」
 けろりと言い切られる。かの学生君には天災にでも出くわしたと思ってもらうほかなさそうだ。
「ずいぶんと彼をお気に入りですね」
「手応えありそうでなあ」
 上機嫌だ。
 この人がこんなふうに上機嫌な時に関わってもろくな事にならない。だからあのすこぶる付きに敏腕な補佐も単独行動を許しているのだろう。
 じゃあなと一言言い置いて、一倉は大股に去っていく。



 そうだ――人は一人で生きてるのではない。生かされているのだ。生かしていただいているのだ。
 自分一人で完結してるような顔をしやがる。鼻持ちならぬその傲岸。たまらない。その思い上がりを撃ち抜いてやりたい。くずおれる姿を見てやりたい。
 SET、HUT。さあ、ゲームを始めよう。

 ……8周年なので。(やらかすにもほどがある)

 「アイシールド21」ご存じない方、「踊る大捜査線」は知ってても一倉ってダレ?最初の上司(女)ってドレ?ていうか佐伯ってナニ?な方、ホントにごめんなさい。どこにどう謝ったらいいのやら(汗)。

 ターゲットとしてロックオンされた阿含の運命や如何に。ていうか課長が見てる神龍寺の試合はいつのどこ戦なんだろう(汗)。泥門戦じゃなさそう??泥門戦だとすれば試合結果知らないんじゃ。結果知ってたら阿含にこんな興味の持ち方しないんじゃないか?

 一倉さんはたぶん愛ゆえに阿含が気になってしょうがないんでしょう。方向性はアレですが、可愛いんだろうと思います。
 いっちーのことですから雲水君の存在にもさっさと辿り着いて、双子の間の複雑怪奇な感情も考慮して、ゆるゆる追い詰めていくんでしょう。途中からはもはやスカウトどうでもよくなってそう。ワクワクしながらどうやって屈服させようか考えてるんだよ高校生相手に。子供だ……。デスノみたいな頭脳戦が書ける頭があればねえ。

 他所の視点というか外から見た阿含を書いてみて、双子の関係はつくづく閉じてるんだなあと思いました。……せめてチームメイトたちとか他校の子でやろうよ。

 一倉さんは喧嘩大好きです。自分が勝つからこそ面白くて大好きです。聖職者みたいなことを言う口で嗜虐性まるだしな事も言います。バトルバカです……。
 青少年のことはすっかりお気に入りの模様。部下ですらナイので完全にオモチャだと認識してます。丈夫でイジリ甲斐のあるオモチャ。鬼だこの人。喧嘩友達になってくれ(……怖ッ……)。
 阿含もそうそうなつかないとは思うけど、仲良くなりでもしようもんなら最強だな……。 



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